光の中に

 

ピクニックを知っていますか。

ピクニックは頑張った日にだけ飲める、特別な飲み物。早く良くなるといいね。

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昔昔、10代にもならない頃の話。非常に丈夫だった私でも、小学校低学年くらいまではたまに熱を出し、またインフルエンザやおたふく風邪にかかった記憶がある。小学校の近くの小さな病院に行って診察を受けて、処方箋をもらって、近くのセブンイレブンウィダーインゼリーと暇つぶしの雑誌を買ってもらうのが定番の流れだった。毎月買っていたのはりぼんだったけれど、風邪を引いた時はファッション誌とか、なかよしとか、そういうのを買ってもらえるから楽しかった。

 

あの日の病院の中の、消毒の匂いと古い建物の匂いの混じった感じとか、石油ストーブのぬるさ、うっすら覚えてる。おばあちゃん先生が粉薬を甘くしておくねっていつも言ってくれたけど、それが全然飲みやすくなかったことを思い出してセンチメンタル。

待合室はいつも薄暗かった。古びたソファと、くたくたのぬいぐるみ。それから、紙パックの自動販売機。記憶の中、小さな音でテレビが流れていたけれど、それよりも自動販売機の重い音の方がずっと響いてる。私はその自販機で売っていた小さい紙パックの飲み物が、いつも欲しくてたまらなかった。ねだってもなかなか買ってもらえなかったけど、それでも何回かはいちご味のピクニックを飲んだような気がする。

 

罵詈雑言を浴びせられた今日。やり切れなくて、中華屋さんでビールセットに小籠包まで頼んじゃってさ、それでも全く心は治らなかった。明日の朝ごはんがないことに帰り道で気がついて、スーパーに立ち寄った。自分を慰められる食べ物はなんだろうと思っておいしそうなアイスや果物を眺めたけれど、全く心を動かされず、ウロウロウロウロ立ち歩いていた。

 

そこで、目に留まったのがピクニック。懐かしい気持ちになって、一本68円、迷わず手に取った。

 

すべての人にやさしくしたい、すべての人がやさしくされていてほしい、足りないなら私が全員抱きしめてやりたい。そういう気持ちで生きてるから、乱暴な敵意に触れるととても悲しくなる。すごく腹が立つし、人間性を疑うけど、それでもやっぱり私は愛されて、満たされて生きてきた人間だと思うから、人の苦しみを想像するには全く足りない。あなたを許しますと言えない自分を恥じるし、覚悟が足りない。ちゃんと腹を立てている自分がいることが悲しい。すべてを手放しに愛したい、余裕で許したい。暴力を抱き留めたいけど、私ではとても足りなかった。

受話器を握る左手も、ペンを持つ右手も、震えが止まらなかったよ。でもあれが今の私の精一杯だったね。あんな風に人にトゲを持つ人が私の周りにはいなくて本当によかった。誰にも言われないから自分で言うけど、本当に頑張ったと思う。本当に辛かったし、暴力だから痛かった。最後まで耐えて偉かった。

こんな気持ちを救えるのはお酒じゃなくて、あの日のピクニックだった。まだまだ子供な証なのか、大人になったからこそ思い出に救われるのか。

 

 ピクニックは頑張った日にだけ飲める特別な飲み物。大変だったね、今日は本当によく頑張ったねえ。早く良くなるといいね。

 

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